kanehen

金属をたたいてつくる人 の忘備録です

黄金有情

今年は後期の授業2コマ(180分×15回)で鍛金(非鉄)の授業をすることになったので、いろいろ思い出したり、YOUTOBEで金工で周辺の動画を見漁っていたのだけど、ほんとに今はいろいろなんでも動画があるもんだと感心する。けれど、やっぱり何か足りないなぁと本など探していて、偶然「黄金有情 金工のものがたり」 大角幸枝著 里文出版   を見つけて読んだ。

大角幸枝さんと言うのは、鍛金の人である。いわゆる工芸の公募展の日本工芸会というのに所属してる人で、東京藝大の芸術学(座学系)出身から、実技に興味を持って、鹿島一谷、関谷四郎、桂盛行(3人とも人間国宝)に師事、日本伝統工芸展を中心に作品発表、受賞を重ねたということで、女性ではじめて人間国宝になった人でもある。

私が在籍していた頃の藝大鍛金研究室は日展、現代工芸系の先生だったし、オブジェ全盛で、用途のあるもののほうが珍しかった、工芸科なんだけど。そして伝統工芸系の仕事をしている先生も生徒もほとんど居なかったし、大角先生と接点は全く無く、ちょうど大学院を卒業した年に先生は人間国宝になっているのだけど、全く知らなかった。

と、この本はヨドバシでバーゲンブックスとやらで、定価の半額近くで売っていた。鍛金に興味がある方は千円ちょっとで買えるので、ぜひ買った方がいいと思う。金工愛に溢れている。とりあえず、私としては金工史の先生だった中野政樹先生が中野恵祥先生の息子だったとかちっとも知らなかったし、なんなら授業の内容もちっとも覚えてない。

本の内容は、カラー図版18ページに作品についての解説、工芸素材としての金属、金工の歴史、彫鍛金の道具、彫鍛金の技法、彫鍛金の仕事、金工の美学、工芸を巡る随想と、大角先生の言葉で思いを込めて書かれている。

文星で伊藤萌木先生の助手していた4年間、昔話はいろいろ聞いて面白いから本にして残してくださいよと話していたけれど、それも叶わないまま萌木先生は亡くなってしまって、あっという間にあの時代の普通のことが消えてなくなってしまうんだと思うと、こうして本にして残していただけたことに感謝でしかない。

「有情」うじょう 感情や意識など、心の動きを有するもの。仏教では 全ての生命あるもの。 全ての生きとし生けるもの、だそうだ。大角先生お年は今年78歳のはずですが、日本工芸会のホームページを拝見すると昨年も新作を出品されているようで、尊敬としか言いようがない。

本の中で引用されている本も多く、これから探して読んでみようかと思う。